ビジネスシーンだけではなく、恋愛や子育てにも使える心理効果「ピグマリオン効果」
このピグマリオン効果を活用することで、あなたにとって良い結果を得られるでしょう。
この記事では、ピグマリオン効果の基本的な知識から、この心理効果のメリットとデメリット、そして具体的な活用方法などを解説します。

目次
ピグマリオン効果とは?概要解説
ピグマリオン効果の基本的な意味とその定義、そして、心理学における位置付けについて解説します。
この心理効果は一体どういうもので、誰によって発見されたのでしょうか?

ピグマリオン効果の基本概要とその定義
ピグマリオン効果とは、他者から期待を寄せられると、人はその期待に沿った成果を出す傾向があるという心理的な効果のこと。
この心理効果の実験を行ったのは、アメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタール氏です。
その為、ピグマリオン効果は別名、「教師期待効果」「ローゼンタール効果」とも呼ばれています。
また、ピグマリオン効果と名付けられた由来には、ギリシャ神話のピグマリオン王が関係しているでしょう。
心理学におけるピグマリオン効果の位置付け
ピグマリオン効果とは
主に教育現場で用いられていましたが、やがてビジネスシーンにも広まりました。
また、ピグマリオン効果については、実験者効果の一つであるとも言われています。
※実験者効果とは…実験者が「この実験では、このような結果を得たい」と期待している気持ちが無意識に、実験に参加している人の行動や反応に影響を与えること。
ピグマリオン効果と似た現象との違いを詳しく解説
ピグマリオン効果と似た現象に、「プラシーボ効果(プラセボ効果または偽薬効果)」と呼ばれる心理現象があります。
プラシーボ効果とは
ピグマリオン効果は他者から期待されることによって効果を表す、プラシーボ効果は自分の思い込みによって効果を表すという違いがあるでしょう。
身近な場面でのピグマリオン効果の具体活用例
ピグマリオン効果は、様々な場面で活用されています。それは例えば、学校であったり、会社、あるいは日常生活の中で。
どこで、どんな風にピグマリオン効果が使われているのか、いくつかの事例を紹介しましょう。

教育現場でのピグマリオン効果の活用事例
1964年にサンフランシスコの小学校にて、一般的な知能テストを「ハーバード式突発性学習能力予測テスト」と称し、実施されました。
このとき教師に伝えられたのは、「今後、成績が上がる者を割り出す検査をする」ということ。
そして、検査結果とは関係なくランダムに選んだ生徒を教師に伝え、「この生徒は、今後成績が上がることが期待出来る」と言ったのです。
教師が、「成績が上がると言われた生徒達はその通りになるだろう」と期待をかけたところ、その生徒達は本当に成績が上がるという結果を得ました。
ビジネスとマネジメントにおける実際の活用例
ロバート・ローゼンタール氏の実験から着想を得た元ハーバード・ビジネススクール教授のJ・スターリング・リビングストン氏が、「ピグマリオン・マネジメント」を発表しました。
ピグマリオン・マネジメントとは、
- 上司が部下に期待している内容、部下との接し方で、その部下の業績や昇進が殆ど決まる
- 優秀な上司は、部下に「営業成績アップや目標達成する」という期待感を抱かせることが出来る
- 無能な上司は部下に期待感を抱かせられないし、部下のやる気も出せない
- 部下は上司から期待されていることのみ行おうとするところがある
といったもの。
これを上手く活用し、新入社員や部下のパフォーマンスを上げている企業は少なくありません。
日常生活におけるピグマリオン効果の体験例
日常生活におけるピグマリオン効果の体験例として、
- 夫に「仕事で疲れているのに子供の面倒を見てくれてありがとう」と言っていたら、率先して子育てするようになった
- 子供に「いつも勉強頑張ってて偉いね。次のテストで良い成績を残せそうだね」と言ったところ、大幅に成績が上がった
- 恋人に「○○君は嘘をついたり人を傷つけたりない、誠実で優しい人だね」と言い続けたら、浮気せず一途に愛してくれるようになった
といったものがあります。
いずれもピグマリオン効果によって、他者から期待された通りの成果を得ました。
ピグマリオン効果のプロセスとそのメカニズム
ローゼンタールの実験から見たピグマリオン効果のメカニズムを、分かりやすくまとめました。
また、期待が人の行動に影響を与える仕組みと、モチベーションや能力向上に与える影響についても解説します。

期待が行動に影響を与える仕組みとは?
人は、誰かから期待を寄せられたとき、「自分を認めてくれたあの人の期待に応えたい」という気持ちになりやすいのです。
そして、相手の期待に応えたい気持ちから、相手が自分に期待している行動をそのまま取ろうとします。
例えば、先輩社員が後輩社員に、「○○さんは優秀だから、同期の中で一番に昇進しそうだね」と言ったとしましょう。
すると後輩社員は、先輩社員の期待に応える為に、誰よりも先に昇進しようと思い、一生懸命に仕事に取り組むようになるのです。
ローゼンタールの実験から見た効果のメカニズム
ローゼンタールの実験から見たピグマリオン効果のメカニズムを簡単にまとめると、
↓
・対象者は、ある人物から期待されていることに気づく
※期待されて、自信が付いたりモチベーションが上がる
↓
・対象者は、ある人物の期待に応えようとする
↓
・対象者は、ある人物の期待に沿った成果を得る
↓
・ある人物は、成果を得た対象者に、更に期待する
↓
・対象者は、ある人物の期待に、更に応えようとする
と、なります。
※ある人物(A)と対象者(B)の組み合わせ例:
教師(A)と生徒(B)、上司(A)と部下(B)、先輩(A)と後輩(B)、親(A)と子(B)、妻(A)と夫(B)、彼女(A)と彼氏(B)
人のモチベーションや能力向上に与える影響
人は、誰かから大きな期待を寄せられると、自分を認めてもらえたと感じて自信が付きやすくなります。
このときに身に付いた自信は、その人のモチベーションや能力向上に繋がるのです。
そして、高まったモチベーションや能力により、期待に沿った成果を出せるようになるでしょう。
また、成果を得たことでもっと期待をされるようになり、その期待を受けて更にモチベーションや能力が高まる為、前回よりも大きな成果を得られるようになります。
ピグマリオン効果のメリットとデメリット
ピグマリオン効果を活用することで得られる成果と、そのメリットを解説します。
しかし、この心理効果には良い面もあれば、悪い面も…。どのようなデメリットがあるかについても解説しましょう。

ピグマリオン効果で得られる成果とそのメリット
ピグマリオン効果を活用することにより、次のような成果とメリットを得られます。
- 期待されることで、心理的安全性が高まる。その結果、パフォーマンが上がったり、離職率が低くなる
- 期待されることで、自信が強まり、難しい物事にも積極的に挑戦していくようになる。その結果、スキルアップが望める
また、この心理効果の大きなメリットとして、その人に備わっている能力とは関係なく効果を発揮することがあるのです。
過剰な期待が招く逆効果やデメリット
過剰な期待がプレッシャーとなり、自信を失ったりモチベーションが下がってしまうことがあります。
その他にある、ピグマリオン効果のデメリットは、
- 自分を過大評価している人の場合、現状に満足してしまい、これ以上の努力をしなくなる場合がある
- 期待されていない人に不満が生まれ、パフォーマンスが下がったり、期待されている人と対立することがある
といったもの。
この心理効果は、気をつけて使わなければ、思わぬ結果を招く恐れがあるのです。
ピグマリオン効果を適切に活用するための注意点
ピグマリオン効果を活用する際は、次のことに注意してください。
- 厳し過ぎるノルマ、高過ぎる目標を設定しない
- 期待されることがしんどいと思うタイプには向かない
- 期待だけして放置せず、定期的に話しを聞くようにする
- ピグマリオン効果を信じ過ぎず、他の心理効果も組み合わせる
- 過剰に褒めない(とくに自分を過大評価しているタイプには注意)
この心理効果を使うには、まず相手がどんなタイプの人間か見極めることから始めましょう。
ピグマリオン効果の実践方法(具体的な活用法)
ピグマリオン効果の具体的な活用方法について解説します。
自分の部下に今より更に成長して欲しいとき、教育や研修の場で活用したいときなど、シチュエーションに応じた方法を紹介しましょう。

部下の成長を促すための効果的な方法
部下の能力で達成出来る課題や目標を与えてください。
その人の能力では達成不可能な課題や目標を設定すると、自信を失くしたり、モチベーションが下がる恐れがあります。
達成可能な課題や目標を与え、期待し、達成するというのを繰り返していけば、時間はかかりますが成長が望めるでしょう。
また、その部下がなかなか達成出来ない場合は決して放置せず、話しを聞いてあげたり、どうすればいいかヒントを与えることも大事です。
教育や研修での実践的な活用法
声掛けをする際に、相手に期待していることが伝わるような言い方をしましょう。
例えば、新しいことを教える場合は、「この前教えた○○がしっかり出来ているから、今から教えることもあなたなら出来るよ」という言い方をします。
また、教えたことが出来た場合は、「さすが覚えるのが早いね。○○さんなら、完璧に出来ると思ってたよ」です。
期待していることを言葉でしっかり伝えると、声掛けされた方は安心しますし、成果にも繋がりやすいでしょう。
コミュニケーションを活用した効果的な取り組み
普段から肯定的な態度で接していれば、相手がこちらの期待を受け入れやすくなります。
その人が成果を出したときだけ優しくして、成果を出せないでいるときや失敗したときは責めたり冷たくするのでは、聞く耳を持ってくれなくなるでしょう。
成果を出したとき、成果を出せないでいるとき、失敗したとき。どんな状態のときでも常に優しく接することで、相手はこちらを信じて期待を受け入れてくれるのです。
ピグマリオン効果の関連理論・心理学用語
ピグマリオン効果との関連が深い理論や心理学用語について解説します。
ゴーレム効果との違いと、その関係性とは?ホーソン効果とハロー効果との比較は?目標設定理論はピグマリオン効果と、どういう関係性がある?

ゴーレム効果との違いとその関係
ピグマリオン効果はプラスの影響を及ぼすのに対し、ゴーレム効果はマイナスの影響を及ぼすという違いがあります。
これは、ピグマリオン効果が期待されると期待に沿った成果を出す傾向がある反面、ゴーレム効果は期待が低いと成果も低くなる傾向があるからです。
この2つの心理効果は、全く正反対の関係性にあると言えるでしょう。
無意識にゴーレム効果を使っている人もいます。お互いにとって良くないので、気を付けなければなりません。
ホーソン効果・ハロー効果との比較
ホーソン効果とは、他者から注目されたときに期待に応えたくなり、それが良い結果をもたらす心理効果です。
ピグマリオン効果は他者からの期待による心理効果で主に上下関係が存在しますが、ホーソン効果は他者からの注目による心理効果で上下関係が存在しません。
そして、ハロー効果とは、ある対象を評価する際に目立つ特徴に引きずられてしまい、全体的な評価が歪む現象のこと。
ピグマリオン効果は対象への期待により対象自体に変化があり、ハロー効果は対象の特徴を見て対象への評価に変化があるという違いがあります。
ピグマリオン効果と目標設定理論の関係性
ピグマリオン効果を活用する際には目標設定理論を意識すると、対象のモチベーションアップに繋がります。
目標設定理論とは、明確であり、その人に相応しい目標が、やる気の上下に影響を与えるという理論です。
ピグマリオン効果を行う上でのタブーは、期待だけして明確な目標を設定しなかったり、高過ぎる目標を与えること。
目標設定理論も取り入れることで、対象がより、こちらの期待に沿った変化を見せてくれるようになるでしょう。
恋愛でのピグマリオン効果
ピグマリオン効果は、恋愛でも活用出来る心理効果です。
恋愛における期待がもたらす効果、期待が2人の関係性に与えるポジティブな影響を解説しましょう。

恋愛における期待がもたらす効果とは
恋愛における期待がもたらす効果には、
- 相手の気になる部分や嫌なところを改善へ導く
- 相手の考え方を自分の理想に近づけることが出来る
といったことがあります。
恋人に何度注意しても遅刻癖を直してくれない、恋人の浮気癖が酷くて困っている…。そんな悩みを抱えたときに、ピグマリオン効果を活用してみてください。
あなたの期待が恋人に伝われば、恋人はあなたが期待している通りの人になろうとしてくれるでしょう。
人間関係での信頼と効果的なコミュニケーション
恋愛でピグマリオン効果を活用する際は、次のように声掛けしてみてください。
- 連絡無しで遅刻する恋人には、「仕事で疲れてたんだね、大丈夫?何かあったのか心配になるから、今度から遅れそうなときは連絡くれると嬉しいな」
- 恋人に浮気されたくない場合は、「あなたは魅力的だから異性にすごくモテるだろうけど、他の人を見ないで私のことだけ愛してくれるって信じてるよ」
ポイントは、相手への思いやりや信頼を、言葉や態度でしっかり伝えること。
その上で、期待していることを伝えると、相手に聞き入れてもらいやすいのです。
期待が関係性に与えるポジティブな影響
期待している気持ちが相手に伝わると、その人は「自分に期待してくれている人を裏切れない」と思うようになり、強い信頼関係が結ばれるようになります。
また、「期待してくれている人の言葉はちゃんと聞こう」と思うようにもなるので、それまで2人の間にあった不満がなくなり、更に2人の仲が深まるでしょう。
相手に期待するということは、不仲で崩壊寸前だった関係を改善したいときにも効果的なのです。
子育てや人材育成でのピグマリオン効果
ピグマリオン効果を上手く使うことで、子育てにも良い結果が得られるのです。この心理効果を子育てに活用した場合の実践例を紹介します。
また、人事評価での活用方法、そして社員研修やマネジメントでの応用についても紹介するので、こちらを参考に実践してみてください。
子育てにおけるピグマリオン効果の実践例
有名なプロ女子テニス選手であるヒンギス氏のお母さんも、ピグマリオン効果を実践していたのではないかと言われています。
ヒンギス氏のお母さんは口癖のように「天才だ」と子供を褒め、試合に負けた際は「あなたは天才だから負けるはずないのに、どうしてだろうね?」と言っていたそうです。
小さい頃からお母さんに期待の言葉をかけられてきたヒンギス氏は、多くの成果を得ました。
このように、子育てにおいてもピグマリオン効果は有効で、上手く使えば子供の成長を即すことが出来るでしょう。
人事評価におけるピグマリオン効果の活用
その人が得た成果だけを見るのではなく、成果を得るまでの過程にも注目し、そこも含めて評価しましょう。
成果を得るまでに、その人はどのような行動を起こして、どんな風に努力を積み重ねたのか。どういう失敗をして、どうやってその失敗を取り返したのでしょうか。
そこも含めて評価することで、評価された側は、「自分のことをちゃんと見てくれているんだ、次はもっと頑張ろう」と感じ、モチベーションアップに繋がるのです。
社員研修・マネジメントでの応用
相手に裁量を与えてみましょう。裁量とは、自分の考えで物事を判断・処理すること。
ビジネスシーンでは、上の者から指示された通りに従うのではなく、自分で考えて行動することを言います。
相手に裁量を与えるのは、その人に期待している気持ちの表れです。
ただし、裁量を与えるだけで後は放置したり、気になってつい口を出し過ぎてしまうのは、その人の為にならないので気をつけましょう。